瀬戸内海がきれいになり過ぎている。
と、言うことが、ここ何年か新聞などに掲載されるようになってきた。きれいになるのは、良いことだと普通に喜んでいた。瀬戸内海国立公園という風光明媚な海なのできれいで、これ幸いだと思う。しかし、瀬戸内海は、きれいなだけの存在ではなく、豊かな漁場でもあるが、海がきれいになって何が問題なのかわからなかった。
私が住み暮らし、そして趣味の釣りをする播磨灘の明石は、瀬戸内海の東端で明石海峡を越え大阪湾や鳴門海峡を経て太平洋とつながっている。
魚釣りと言うより肴釣りではあるが、魚が減ったのは素人目にも間違いない。そして、漁師は魚が減ったことに危機感を持っている。
問題視をして対策を実施している兵庫県は、その大きな要因として、きれいになり栄養分がなくなった海にあるという。魚介類の栄養素となる栄養塩が、きれいになり過ぎた結果、大きく減少したことに重点を置いている。栄養塩は、植物プランクトンや海藻の栄養となる、海水中に溶けた窒素やリン、ケイ素などで、これが不足すると海の中のプランクトンからの食物連鎖が立ち行かなくなるというものである。
播磨灘の春の風物詩でもあるイカナゴの漁獲量は激減である。イカナゴが生まれ育つ明石沖の鹿の瀬と呼ばれる砂地の漁場があるが、過去に違法な砂採集で壊滅的な被害が出た影響も考えられるが、繁殖力の高い小魚は、エサとなるプランクトンが豊富にあれば、もう少しは回復して漁獲量も改善されているはずだ。春に1キロ300円や400円で買えたものが、今年は3000円だ。価格の桁が変わった高級魚になってしまった。
兵庫県産の海苔の生産量は、全国でトップクラスだ。秋から春は、明石沖も至るところが海苔棚に覆われ、海苔の畑の大きさが、その生産量を物語るようだ。その海苔の深い緑の黒っぽい色合いが、色落ちという現象で茶色くなってしまうことが生じ始めた。栄養不足が原因だ。ブランドの明石タコも減少している。魚介類が減少している。その原因の大きなポイントに、この栄養塩の不足だそうだ。
海の中は、食物連鎖だ。植物性プランクトンから始まり、それを動物性プランクトンが食べ、小魚と魚やタコのエサとなる甲殻類や貝類が、動物性プランクトンを食べて増えていく。さらには、その小魚や甲殻類をもっと大きな魚たちが食べて増え育つ。豊かな海の食物連鎖だ。栄養塩がなければ、食物連鎖が成り立たず、豊かな海にはならない。
その栄養塩である窒素の濃度は、国の環境基準では、「海水1リットル当たり0.3ミリグラム以下」とされている。過去1970年代に水質悪化のピークがあり、窒素濃度が「0.7mg/L」まで上昇した。その後、きれいな海を目指して改善が始まった。プランクトンが死んだ赤潮が、それなりに海で発生していたのを実際に見ていたが、最近は沖釣りをしていても赤潮を見ることはなくなった。プランクトンも少なければ、酸欠で死んでしまうこともないということか。そして、2016年に窒素濃度は「0.14-0.18mg/L」と大きく改善された。
これは、透明度が上がりダイビングに適した海水だが、魚には淋しい海になったことを表しているそうだ。
そこで、兵庫県は水質の基準を変更して、水質の窒素濃度の下限を設けた。それが「海水1リットル当たり0.2ミリグラム」ということで、全国初の環境基準の下限設定である。
「美しい海」から「豊かな海」への転換がされた。すでに、兵庫県の下水処理場の一部から海へ流す窒素濃度を高める試みがされたと、先日報道されていた。
確かに、明石には自然の砂浜が残る海岸が多く、最近その砂と海水の美しさが、妙に都会が近く、人口が多いエリアの海岸とは思えないきれいさと感じていた。単純に喜んでいたが、少々自然はもう少し複雑であった。この明石の砂浜にも5年前までウミガメが産卵に来ていた。しかし、平成26年を最後に姿を見せていないが、ウミガメも、エサの豊富な海を選ぶのだろうか。
きれいな海が、魚には住み暮らししにくいものだというのは、誠に皮肉なもので自然の難しさだ。過ぎたるはなんとやらだ。新しい令和の時代に瀬戸内海播磨灘は豊かな海に生まれ変わり、明石の前ものと称されるタイやタコなどの魚や春の風物詩のイカナゴ、そしてエビやカニに貝など、気軽に食べたい。そして、太平洋から産卵に来る大きなウミガメも見てみたい。
改善は始まった。そして、もうひとつ大事なのは、あってはならない「プラゴミ」の一掃だ。